わっぱ にっき

活動と創作の記録

東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター 設立記念式典

11月1日、東京大学本郷キャンパスの伊藤国際学術研究センターで開催された「東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター設立記念式典-東京大学が挑戦するバーチャルリアリティの未来-」に参加してきました。

当日は
13:00~17:00 式典の部
17:00~19:00 懇親会&デモ展示
というタイムスケジュール。

東京大学が全学組織としてバーチャルリアリティの研究開発を推進し、公式に活動をスタートさせた歴史的な瞬間に立ち会うことができました。(廣瀬先生もおっしゃってましたが、「バーチャルリアリティ」とかいうキラキラした名前を全学組織の正式名称に使ったこと自体が異例です笑)
式典を聴講し、未来への希望と課題感の両方を感じたので備忘録もかねて記そうと思います。

石川正俊先生(情報理工学系研究科長)

今回新設されたこのバーチャルリアリティ教育研究センターは、最新テクノロジーをテーマにした全学組織としては、AIに関する次世代知能科学研究センター、データサイエンスに関する数理・情報教育研究センターに加えて三つ目の研究センターとのこと。
設立の背景として、東京大学が現時点でバーチャルリアリティ研究において世界をリードしていることから、今後はよりその研究を社会に還元していくために学内・学外との連携を強める目的があるとおっしゃていました。

五神真総長

大事なことだと話が長くなってしまうという五神総長ですが、とても濃密で考えさせられるお話をしてくださいました。

バーチャルリアリティ研究も含め、現代社会におけるキーワードは「遠隔・分散・結合」とのことです。インターネットが普及し情報社会といわれている今、人々の情動が予想もしない方向で世界を変えることがあります。しかしそれを拒絶するのではなく、賢く制御する必要があります。
世界中に膨大に散らばるデータをどう活用するか。悪い意味でデータを持っている人のところに人が集まるようになり、致命的に格差が広がる負のシナリオも考えられます。そういった負のシナリオの到来を防ぐためにも、意思をもって新しい知恵を生み出す大学の役割は非常に重要です。

近年、デジタル革命によって現実空間とサイバー空間の結合が急速に進んでいます。そしてバーチャルリアリティVR)技術は人間とサイバー空間をつなぎ、人間の感性や思考、その結果としての社会の成り立ちに大きな影響を与えると期待されます。VR技術によって様々なハンディキャップを克服して個性を生かしながら生きていけるような、インクルーシブ(包括的)な社会を実現できるのです。


また、VR技術の発展においてデータ伝送技術の進化も大変重要です。データ転送技術において日本には国際的にみても圧倒的な優位性があります。例えば全国47都道府県の大学・研究機関を100Gbps帯域で結ぶ高速ネットワーク「サイネット」が代表的です。世界を見てもこれほどのネットワーク環境はなく、VRをはじめとした通信を使う技術の研究開発を大きく支えています。強いネットワークのおかげで、遠隔地でバーチャルリアリティをストレスなく使えるというのは大きなアドバンテージです。

バーチャルリアリティは日本の優位性を生かす重要な研究領域です。今回この「バーチャルリアリティ教育研究センター」の設立を通して、従来のVRに参画していた研究者だけでなく幅の広い連携を構築し、その成果を国内外の学生・社会人・産業界にも提供していくつもりです。

社会が知識集約型にパラダイムシフトすることを先導する東京大学の中でも特にVR教育研究センターが中核を担う存在になってほしい、とのことです。

磯谷 桂介氏

続いて文部科学省研究振興局長の磯谷桂介氏が祝辞を述べました。日本の基礎科学力が相対的に低下していることを示唆し、内閣府が提案するSociety5.0 について触れました。Society5.0 とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のことです。

Society 5.0 - 科学技術政策 - 内閣府

廣瀬通孝先生

続いてセンター長の廣瀬通孝先生が登壇されました。

バーチャルリアリティ」とは、コンピュータの作り出した空間の中に入り込み、そこでいろいろな体験をしようという技術のことです。最初のVRから29年が経過した今、技術者の世代交代・驚異的な高性能低廉化・ネットワーク技術をはじめとした周辺技術の格段の進化によって、VR技術は第二世代に突入しつつあります。世界のVR研究は大規模開発投資を伴いながら新たな発展を始めました。その中でも日本が指導的立場を保つためにも、その研究開発と利活用の主体となる組織の整備が急務です。

VR教育研究センターの目的は
VRに関する先導的基礎研究を推進するとともに、教育を含む様々な分野へのVRの応用展開を目指した総合的な教育研究基盤を整備すること
です。

全学組織として「バーチャルリアリティ」とかいうキラキラした名前がついた機関ができたのは驚くべきことです。学内はもちろん、学外の企業や研究組織との連携も図り、バーチャルリアリティ研究を進めていきます。

バーチャルリアリティ教育研究センターは、以下の二つの場所を提供します。

1. バーチャルリビングラボ
ギャラリー・ワークショップの場として人々を「招き入れる」場所です。多くの人の思考や活動がフュージョンし、新しいものが創出する場所として期待されます。
2. バーチャルフィールドラボ
研究を成果を「見せる」場所です。研究成果を試し、実験する空間を提供することで、現実空間/人間とサイバー空間の結合を実在を伴って披露できるようになります。


また、VRセンターはプロジェクト単位で研究を進めます。現時点では以下の三つのプロジェクトを遂行予定です。
プロジェクト0「VR教育研究システムの研究」
プロジェクト1「VR基盤技術の研究」
プロジェクト2「VRメディア技術の研究」

その中でもプロジェクト0「VR教育研究システムの研究」についてはいくつか事例を挙げてくださりました。
1. 体験講義
  防災教育とシミュレータ
2. 遠隔講義
  テレプレゼンス(遠隔臨場感)
  VirtualGeologist
   火星の地質探査をバーチャルな方法で行おうという試み
3. 概念の可視化
  光速30cm/sの特殊相対性理論の世界
  4次元ジュリア集合の可視化
4. 動機付け
  「心の問題」
  「勉強は嫌」というのを克服したり、議事成功体験による自己効力感生起

まとめ

この後、若手の研究者らによるプレゼンとパネルディスカッションが行われました。
これから人間とコンピュータの関係がより密になり、その境界がどんどん曖昧になっていくように思います。それは人間の生活をより便利にしていくと同時に、これまで想像できなかったような弊害が出ないとも言い切れません。大学の中でその分野に特化して考察・研究しアウトプットする機関ができたことは、科学技術の健全な発展において必然のように思います。
ヒトとコンピュータのインターフェース技術、また人間の「こころ」と「体」にアプローチするバーチャルリアリティ研究は、人間の未来を創るうえで中核となる研究です。VRセンターを通して、私もこのワクワクする研究分野に携われたらいいなと感じました。